醸造所のよもやま話

201902醸造所
■雪林に佇む自家醸造所

──── 周囲の雑木林にすっかり馴染んでいますね。

この醸造所で、ブルーベリーワイン2019 光希が誕生しました。

「光希」は、自家醸造第1号のワインです。

この醸造所は、後継ぎのない高齢農家から不要な農業用倉庫を引き取ったものです。

つまり、661ワイナリー計画のコンセプトに沿った「資源再生建築物」なんです。

こういった大型の倉庫は、「廃棄物」としては多額の処分費がかさむ厄介者ですが、私たちの手に掛かれば「醸造所」という観光資源に変身させることができます。

大谷石と植栽
■大谷石と植栽

醸造所の外観はニューヨークのアーバンワイナリー風に整備し、敷地には「災害ごみ」だった「大谷石」を敷設し、自然に馴染むような植樹・植栽を心掛けています。

開墾と同時に醸造免許取得に取り組みました。

何度も書類の修正が必要だった上、農園の土壌に合う苗探しや人材確保なども同時進行で・・・本当に大変でしたが、あっという間でした。

「光希」の誕生は、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日には間に合ったものの、那須町が「どぶろく・ワイン特区」を取得してからは4年が経過していました。

17年前から造っていたブルーベリーワインは、この程、酸味を活かし甘さを抑えたスッキリ味のワインに生まれ変わりました。

那須産100%ブルーベリーワイン光希500ml
那須ロイヤルブルーベリーファーム

────「どぶろく・ワイン特区」の 「どぶろく」ってどんなお酒ですか?

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■どぶろく

どぶろくは、昔から豊年祈願などの神事に使われ、今でも全国各地の神社で「どぶろく祭り」が開催されている歴史のある酒です。

どぶろくとにごり酒
■どぶろくとにごり酒

また、どぶろくは家庭でもカンタンに造れるお酒です。

ほんのり甘く呑み易く、清酒並みのアルコール度なので、呑み過ぎには注意が必要です。

ちなみに甘酒は、アルコール度数が1%未満なので「清涼飲料水」です。

にごり酒はどぶろくにソックリです。

見た目は似ていますが、もろみを濾(こ)さないままのどぶろくと違って、荒くとも漉(こ)しているので、にごり酒は「清酒」に分類されます。

──── ワインも清酒も「醸造酒」です。本当に同じものなんでしょうか?

アルコール飲料は、「醸造酒」「蒸留酒」「混成酒」の3製法で分類されます。

☑ 醸造酒・・・ワイン、清酒、ビール、紹興酒など

☑ 蒸留酒・・・焼酎、ウイスキー、ブランデー、ジン、ウォッカなど

☑ 混成酒・・・みりん、リキュールなど

飲料としての分類は、ワインも清酒も「醸造酒」であり、穀類(米)、果実(ブドウ)などの糖質原料を発酵させて製品にするという点では同じです。

ですが、ワインと清酒では、その製造過程に大きな違いがあるのです。

ワインの仕込み
■ワインの仕込み

良質なワイン造りにおいては、「ブドウの出来」が最も重要です。

簡単に言えば、ワインの原料である「ブドウ」を潰して放置するだけで発酵し、製品になるからです。

「ブドウの品質」がワインの出来・不出来にダイレクトに関わってきます。

日本酒の仕込み
■清酒の仕込み

一方で、清酒では「水」「醸造技術」が肝要です。

清酒の原料であるに水を含ませ、麹の酵素で糖を造ると同時に酵母で発酵させるという、非常に複雑で高度な醸造技術が必要です。

「水」と「醸造技術」のどちらが欠けても清酒にはなりません。

分類は同じ「醸造酒」でも、果汁を発酵させて出来上がるワインと、米から仕込む清酒では醸造の工程が全く異なるんですね。

──── 一般的に「良いワイン」とされる基準は何でしょうか?

世界では広く、「ヴィンテージチャート」という一覧表が使われています。

「ヴィンテージ」ブドウの収穫年を指し、「ヴィンテージチャート」とは、ブドウの評価項目を数値化し、生産地区ごとに一覧で示したものです。

昔、英国の愛好家たちがワインを収集する指針として作ったもので、今では世界各国のジャーナリストや専門家が採用しています。

ワインソムリエなども、ヴィンテージチャートを参考にしつつ、栽培や醸造技術などの背景を複合的に判断して選別しています。

パーカーポイント
■パーカーポイント(PP)

「パーカーポイント(PP)」とは、世界で最も影響力が強いとされるアメリカのワイン評論家ロバート パーカー氏(現在は引退)の評価を示したヴィンテージチャートです。

気象条件としては、

☑ 春から秋までの日照時間が十分確保されている

☑ 収穫時期に大量の雨が降らない

といった、ブドウ栽培に適した気候であれば「当たり年」と言われます。

──── 醸造所にある設備は、ほとんどステンレスなんですね。

661ワイナリーのタンク
■661ワイナリーのタンク

「ワイン醸造」と聞くと、大きな木樽を連想する方が多いですね。

勝沼の老舗ワイナリーを訪問した折、木樽とステンレスタンクのワインを両方ともテイスティングさせてもらったのですが、どちらも絶品でした。

661stの醸造委託先の話では、ステンレスタンクの先駆けはボルドーという説があります。

ワイン業界の情報によれば、ニューヨークワインはステンレスタンクとIT技術で急成長したということです。

木樽
■木樽

木樽の特徴は「味の複雑さ」です。

木樽には通気性があり、ワインが空気に触れているため、樽材からポリフェノールやリグニンなどの成分が溶け出し、化学反応で複雑な風味が生まれます。

また、樽の内側のロースト(焦がし)加減で、バニラ、チョコ、コーヒーなどのフレーバーが出せるため、樽の大小や樹齢の組み合わせから彩り豊かなワインが生まれています。

ただ、樽の寿命が3年~5年と短いことと、造り手の技術に左右されることが難点です。

一方で、ステンレスタンクは錆(さび)に強く、温度調整がカンタン、衛生的で汚れ知らずという三拍子揃った醸造機材です。

醪(もろみ)やワインを入れる容器として使われ、「発酵用」と「熟成用」に分けられ、オークチップを利用した樽熟成の風味が付けられます。

ただし、香りの複雑さ、深い味わい、希少性や高級感・・・といった点では樽に及ばない部分も。

当社では、双方のメリットをバランスよく組み合わせ、発酵用はステンレスタンク、熟成用は赤ワインが木樽、白ワインはステンレスタンクを選びました。

────「醸造」って奥が深いですね。ところで一番奥にあるタンクは何ですか?

銅のタンク
■ピカピカの銅タンク

ビールサーバーです。

できたばかりのビールが直接飲めるんです!

来年ワインセラーを造って飾りにしようと考えてますが、いまは保管場所がないので隅っこに置いてます。

ワイン醸造とはあまり関係ないですね・・・はい。趣味で買ってしまいました(笑)。

おわりに

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ワイナリーは来春開業予定です。

どうぞお楽しみに!